大江山奇譚

おおえやまきたん

『大江山奇譚』(『酒呑童子』)には、美しいとばかりは言えない場面が多々見られ、奈良絵本製作の目的のひとつであった貴族や大名の姫君たちの嫁入り調度品としては、あまり似つかわしくない部分も多く含んでいる。

同じ主人公による鬼退治談ではあっても、『羅生門』には都でのシーンが多く登場するのに比して、『大江山奇譚』はその名のごとく、都の郊外、荒々しい千丈ヶ嶽(大江山)、不気味な鬼ヶ城を描く場面に絵や詞の多くが割かれている。

人間が足を踏み入れることもできないような険しい山中で、酒呑童子は都の貴族のような屋敷を構えて、客殿や庭のしつらいまでなされた、表向きにはひじょうに豪華な暮らしをしている。客殿の床の間には何の本なのかはわからないが、冊子と巻子が並べられている図もあり、知的な生活空間であることさえうかがわせる一方で、『羅生門』にはみられないような鬼の生活習慣について、当時の人々が考えていた残忍な鬼の行為が具体的な表現で描かれている。

もちろん架空の話なのではあるが、そのうらにはある種、人間の思想が存在するはずであり、それらを考えるうえでも重要な要素を含んだ作品といえる。

『常照-佛教大学図書館報 第59号』より (PDF:13.1MB)