十二月あそひ(正月から六月)

むかしは年月のうつる時節(じせつ)をしら
ず草のかれ行て二たひあをくさ
かふるを是を一年と名つけもし
人其としいくばくぞととへは我は
いく草のあをくなりしを見た
りとこたふ月のまとかなるを一
月と名つけ草の色をそく生(おい)た
つとき閏(うるふ)あることをしれり其
のち唐尭(たうげう)といへるみかどの時容(よう)
成(せい)といふ臣下はしめて暦(こよみ)をつく
り十二月(つき)を一年とし卅日を一
月とし十二時(じ)を一日一夜にさだめし
より年月あきらかにしれる事
になり侍へりをよそ一年を十二
月にわけらるゝ事は天の七曜(よう)地
の五行にかたとれり是にたくへ
て月々のいはひあそひのしなしな
世々のみかとのなしそめ給ひしかす
かすおほしそれならて月雪花
もみちはこと更うとからぬなかめそ
かし哥よみ詩つくりて月はくもら
すもかな雪にはあとつけし花は
ちらすももみちは色なかはりそ
とねかふも又やさしさらてはみ
かとのまつりことにかすかすのさた
めあり年中行事公事根源(こんげん)に
つまひらかにしるされたり又年
月のうつるにかはるかはるのあそひ有
事は雲の上大宮人よりしたつかた
あやしの民まて是有事おほか
り源氏物かたりまほろしの巻吉(まきよし)
田(だ)の兼好(けんこう)かつれつれ草にかきのせ
たるらんそれはをろかならん人のよみ
たやすくしるへき事もふかき文の
言葉なれはかたかるへし只世のこと
草人のしり侍へるをかしき事共
のゑにかきたるをいさゝかに
ことかきして
わらひ草の
たねを
うゆる
なるへし

正月

去年(こぞ)とことしと一夜をへたてゝ
きのふにけふはかはらすとおもへと
春たつ空は心からのとやか也四方
の山には霞のあし青山のかしら
をふまへて立あかりうくひすの
こゑもうれしけにのきはちかく聞ゆ
日かけもうらゝかにかきねの草も
もえ出る程なり梅のにほひもいに
しへをおもひ出るよすかとなれる
大路のさま松たてわたし家々の
しめかさりもいみしくうちみえて内
にはほうらいの山をかさり靏龜(つるかめ)
にことふきをなそらへて千代よろ
つ世をいはふとかやさたまれる事
とておとこ女われもわれもと出たち
家のかとに物申て礼義たゝし
きも又をかしあかつきよりこゑ
うちたてゝめてたきわかゑひす
をいはひおさむ千町万町のとり
おひさゝらをすりて福徳(ふくとく)をい
はふ都かたにはきかすあつま
のかたにはえひすかきといへるものゝ
一ちやうの弓をもつてあまつした
おさまる御代をことふきすとし玉
とかや命をのへてすゑもさかふる
あふきをうるもいかめしうよはゝ
るこゑ聞ゆ子とものむれ出て
玉をとはしあそふもさらなり七草
のいはひことすきては十五日より
うちつゝきて大内より賀茂かはか
のとうとおほんのまつりもあり
廿日はくそくのかゝみひらき武家
のいはひはひたすらけふに
あるものをや

二月

すてに睦月もうちすきてきさら
ききにうつれは梅の花やうやうちりぬる
にをしつゝきてうは櫻もさきい
てたり八重のこうはいはなを色
をあらそふやゝ春ふかくかすみわた
りて人のこゝろもうきたち山ゝの
木のめはるへにけしきたちて月
のなかはに成行まゝに十五日は
佛のねはんにいらせ給ふ其ふるき
あとをきくに天ちくの狗邪那
國はつたいかのほとりしやらさう
しゆのもとに八万の大衆十六の大
からん天人りうしん五十二るい星(ほし)
かなしみけん其さまをゑにあら
はしてねはんさうといふならし本(ほん)
朝(てう)の寺ゝこの日にいたりて此ゑ
をかけねはんゑをおこなふなるこ
うちたてゝめてたきわかゑひす
をいはひおさむ千町万町のとり
とさら五山(ごさん)のうち東福寺(とうふくじ)の繪(ゑ)
はちやうてんすとかやいへる法師の
かきたりけん人ゝこれに参りて
おかみたてまつるもけうとし

三月

弥生(やよひ)の空にはさき残る花もなし
うちつゝく春雨にちりすくる
えたえた青葉ましりの花(はな)の色
人の心をそまよはしなやます
ものなる名ところおほき花の
にほひ吉野(よしの)はつせはさら也嵯峨(さが)
野ゝ御寺には大念佛とてむかし
よりさたまれるおこなひありき
せんくんしゅしてまうてぬるに
をしつゝきて十九日はさがのゝ如(にょ)
來(らい)の御身をぬくひ奉(たてまつ)るまことに
三国(ごく)第一の名佛(めいぶつ)ぞかし廿一日は高(かう)
野大師(や だいし)の御(み)影(えい)供(く)かのたか野ゝ御
山はほととをければ申すにたらす
みやこちかき東寺(とうじ)のさんけい仁和(にんわ)
寺(し)高雄(たかお)のまうてあるもけしから
ぬさま也わらはへのことわさとて
都の町々よりうへつかたまて庭(には)
鳥(とり)あはせのなくさみあり庭鳥は
智仁勇(ちじんゆう)の三徳(とく)をそなへてものゝ
ふのよきならはし也またむかしよ
りいひならはすなる千羽(ば)の庭
鳥をかふときは其家かならす
長者となるといへりそれならても
時をしるの徳あるもの也

四月

卯月に成ぬれはかきねに咲る夘
の花は又なまめかしはなたちはな
のにほひをとめて郭公の雲井に
名のるこころしてのたをさの名にいに
しへ人のこひしきはけにさら也
岸(きし)のやまふききよけにさきて井
手の水に影うつるはこかね花さく
夕かとおもほゆるも心ゆかし八日
は灌佛(くわんぶつ)のおこなひあり推(すい)古天王(こてんわう)
の御時よりはしまれりほとけ
のむまれ給ふ日なれは生湯(うぶゆ)をひ
きたてまつる若葉の木すゑす
すしけにしけり行もあはれ也
おほつかなき藤の花さきみたれ
てさかふる北のふちなみもたかき
空にやにほふらん都ちかき所に
は大谷とかや名をえたる花ふさ
なかき白藤もありといへる猶も
心ゆくは野田の藤たなにそ
ありけること更藤は酒えんを
このむものなれは酒のにほひに
は花ふさもなかく木も
さかふるとなん
聞えし

五月

五月のはしめの五日は民の家にあや
めふく日にて夏の疫氣(えきき)をはらふ
事は今日はこと更賀茂(かも)のくら
へ馬ふかくさの神事にて人みな
袖をつらねそよめき立て行て
見る事すてにはてゝかへるさの
ほとこそけうとけれわらはへとものか
りそめに石うちしたるのちには
わかきおのこともゐんちといふ事を
し出してたかひにたたかひいとみて
手からにもあらぬきすをかうふり
命をすつるもをろかならすや此日
雨のふるものこりおほしもろこし
黄帝(くわうてい)の時に蚩尤(しゆう)といへる朝(てう)てき
をせめほろほせしためしより今
につたはりて家ことにのほりを
たてかふとをかけて天下太平の
ありさまをしめすをのほりなん
ともしとゝにぬれて人もかさうちさ
してゆくゆく見るも又をかし楚(そ)
の屈(くつ)平原(へいげん)かことよりはしまりて
けふは茅(ち)巻(まき)をいはふとかや

六月

水無月のころは世もこと更にあつう
して人もいきつきあへぬ程なり家
ことには蚊(か)やり火ふすふるもあは
れなりあやしきふせやに白く
さける夕かほの花の名はことこと
しうけたれて聞ゆるも又をかしこ
とさらに見物すへきは祇園(ぎをん)まつり
なりもとは是尾州(びしう)の津嶋の御
神也清和(せいわ)天皇(てんわう)の御時貞(でう)觀(くはん)十一
年はしめて都にくわんしやうす
それより神事のことおこりてむ
かしは六十六のほこをかさりて四
条の町をわたしけれと事大そう
なれはいまはわつかにその数をしらし
むるはかりなり山をかさりてわた
すも又見ところありひとつもあた
にいはれなき山はあらす此日にい
たりて神の御こしをあひわたすに
犬神人(いぬじんにん)の立出てまつりの御とも
しひちをはり威勢(ゐせい)をふるふも
をかしきいはれの
ある事