十二月あそひ(七月から十二月)

七月

さても七月の七日は天上にあまの
川とてふかくひろき川あり一とせ
にたゝこよひはかり牽牛(けんぎう)織女(しょくぢょ)の
あふ夜なれはかささきのもみちのは
しをわたしてちきりふかきなかた
ちをなすとかや乞(き)巧(かう)奠(でん)とて人みな
こよひは七夕まつりするもなまめ
かし五色(しき)の糸(いと)を針(はり)にさし衣をかし
くたなはたつめに事をいのるも
さら也九日十日六たうといふところに
まうてゝまつるへきしやうりやうをむかふ
もけしからすみゆ十四日よりは寺にせ
かきのくやうあり町には聖霊(しやうりやう)のた
なをかざり百味のそなへもの十六日
まていとなむもたうとし家ゝのかど
にはいろいろのとうろうに火をと
もしむかしよりある事にてわかき
人みなたち出てをとりをするもた
えぬ見物ならすやたれとはしら
すほうかふりして栁のこしたをや
かにうちふり哥のふししめやかにうた
ひつれたるは夜目にみるからうつゝ
こゝろになりぬ

八月

名にあふ秋もなかはやうやう夜さむ
になるほとこしぢのかりもはをな
らへては雲井になきてくるころ
萩か下葉もいろつきわさ田かり
ほすなと人の心も秋に成ぬれは
そのことゝなくものあはれにむしの
こゑこゑもうらみかほなり三五の夜は
こと更月もひかりをそへ桂の実(み)のる
ゆふへの空もろこしには洞庭(とうてい)の月
の夜をなかめあかして詩(し)をつくる
とかやわか朝(てう)にはさらしなをば捨
二見(ふたみ)か浦(うら)清見(きよみ)か関(せき)こそ月に名を
えし所なれ都ちかきあたりには
廣澤(ひろさは)の池のあたりそ月をなかむ
る名所とはいふなるそれならては
須まあかしの月はさらなりこよひ
の一輪(りん)まとにみてり万水の影て
りまさりぬれは二千里の外ま
て空もなし故人(こじん)の心はいかに
とかおもふらんとふけゆく空にかた
ふく月をなかむるほとに名残な
く山のはにかくるゝは又すてかたし

九月

野分の風すさましくすゝきはほ
に出てなにのたゝちにたれをか
まねくらん萩の葉かれゆきて
蝉(せみ)のもぬけたる又あはれなり咲
つゝく菊のまかきは露うるはしく
みえわたりてひときはのなかめそ
かしもろこしの慈童(じどう)か菊のなかれに
よはひをのへて七百歳(さい)をへしか
ともかたちはたゝ十六七なりほうそ
といへる仙人(せんにん)になりけんそれより
このかた菊を延年草(ゑんねんさう)と名つく
陽九(やうきう)といふは九月九日これ大陽
の日にして菊の酒をのむときは
かならすやまひをのかるゝとかやさ
れは我朝(てう)には賀(か)州(しう)に菊酒(きくざけ)あり
むかしは菊の山ありて谷水なか
れ出たるをさけにつくりてのみけん
人みな一百二百のよはひをたもち
てやまひなかりしそのためしよ
りいまにつたはる名物也

十月

神無月といふ事は日本の神たち
出雲の國にあつまりたまへは出雲
には神有月と申すとかやかの大
社の明神は諸神のつかさにてまし
ませはこのところにもろもろの神た
ちあつまり給ふけにも出雲の海つら
にはさゝ舟いくらといふ数なくうか
ひてみゆといひつたへ侍り北時雨いく
しほそむらん青かえてもいろことに
染わたりてにしきをさらす山ゝの
名ところはおほけれとことさら龍田
の明神は紅色をこのみ給へはもみ
ちのいろもことにそめわたり川に
ちりしくありさま蜀江(しょくかう)にひたして
すゝくにしきのいろもかくやとそお
もほゆ都ちかきところにはいなり山
のもみちも名たかけれと高雄のも
みちは一きはの詠めそかしあたり近
き清たきの川瀬よりちりうき
てなかるゝもみちの色を見さらん
もこゝろつきなし谷ふかきにむ
かひてかはらけなけのあそひするは
さら也

十一月

もみちの色もやうやううつろひて
霜月のころは木すゑもあはれなり
しもはしらすさましきまて立なら
ひていとしろうみゆるも又をかし大
うちより民の家々まて庭火をた
きて神をいさむ事もゆへなきには
あらすむかしあまてる太神御お
とゝのすさのおのみことにうらみ給ふこ
とありてあまの岩戸にこもりた
まひしに闇のうちとこやみとなれり
けり思兼(おもひかね)のみかとはかりことをめく
らしてあまのかこ山のまさかきに
八咫(やた)のかゝみをかけ庭火をたき
て八百よろつの神たち岩戸の
まへにむらかりてかくらをそうしま
ひあそひ給ひしかはあまてる太神
岩戸をひらき出給ひしかは人のおも
てしろくみえけるよりあなさやけあ
なおもしろと諸神申させ給ひしよ
り庭火ははしまりて
いまにつたはる
こと也かし

十二月

月日やうやうすき暮て極月(しはす)にうつ
り行こそ人の名残も世のいそが
はしきもおもひしらるれすさまし
き物は十二月(しはす)の月夜といひけんく
もりなくさし出たる空のけしき
さすかに見る人もなし月のすゑに
いたりぬれは心ほそく成行まゝ又
くる春のいそきにとりかさねて
家々うちはらふすゝほこりの立ま
よふていろめも見えぬに町々は行
人かへる人これかれめせといふて門の
松ゆつり葉かさりのしめほなりのし
たこゑこゑによはゝるもいとたうとし
かゝみもちいつくとてとよめきにき
はふもまたをかし年月暮て節
季候とおとりはねて物をこふところも
ありことのいそかはしきにとりくはへ
てうたてしくもおかしかりけり大
つこもりの夜いたうくらきにたい
まつかひともしなと手ことにもちて
夜半すくるまて人の門たゝきはし
りありきてあしをそらになしつ
もりかさなるあきなひ物のかけを
きのりそのかはりをこふにことこと
しくのゝしりていさかひあらそひて
とよみになるもうとましあかつき
かたよりはさすかに家々もしつまりつゝ
物音もなく成ぬるこそ年の名残は
いま一時よとおもふにもいとゝ心ほそ
からぬかは明行空のけしききのふ
のいそかはしきに引かへて一きは
めつらしき心ちそする世のけはひも
花やかにうれしけなる又あはれなり
いひかはす言葉もめてたき春の
よろつ世をいはふ若水に屠蘇(とそ)白(びやく)
散(さん)をちりうかして年の
千とせをいはふ
とかや
年ことの日々月々のあそひ物世
の人のなすことわさよむともかく
ともつきすましけれととりわきて
此十二月のなりはひ上つかたより
したつかたまておなしくつとめい
となむ事にて年月をはをくる
物なり