原文

花洛細見圖序

それ王城(わうじやう)は桓武(くわんむ)天皇(てんわう)より己来(このかた)累世(るいせ)の皇居(くわうきょ)千秋(しゆう)
萬歳(ばんぜい)の地(ち)なれば文武(ぶんふ)長久(ちやうきう)の守護(しゅご)として霊社(れいしゃ)霊仏(れいふつ)の
示現(じげん)ありし旧地舊蹟(きうちきうせき)もすくなからす 此故(このゆへ)に板行(はんくわう)の書
物(しょもつ)山城名所記(やましろめいしょき)を始(はじめ) 京わらんべ京はぶたえ雍州志(ようじうし)などさ
まさまに多(おほ)くありといへども今我家(わがいゑ)に商(あきなふ)所の繪本(ゑほん)に便(たより)すべき
書(しょ)なきを残(のこり)おほく日夜(にちや)に洛陽(らくやう)の東西(とうざい)に歩(あゆ)み朝暮(てうぼ)中
花(ちうくわ)の南北(なんぼく)を見めぐり神社(じんじゃ)仏閣(ぶっかく)故事(こじ)来歴(らいれき)祭礼(さいれい)法事(ほうじ)の
年中行事(ねんぢうぎやうじ)雪月花(せつげつくわ)の故蹟(こせき)名所(めいしょ)等(とう)まで悉(ことごとく)あらため堂舎(だうしや)
方角(はうがく)それそれの容(すがた)を写(うつ)し全部(ぜんぶ)十五巻(くはん)の繪本とす是偏(ひとへ)に
一人の手に出るといへども普(あまね)く諸国(しょこく)の翫(もてあそび)となり 且(かつ)は洛陽(らくやう)独(ひとり)案
内(あんない)の便(たより)のみにあらず又は畫工(ぐはこう)の助(たすけ)にもなるべければ是また
梓(あつさ)にちりばめて永(なが)き桜(さくら)の春(はる)にむかふと云り
元禄十七甲申歳正月吉日
寺町通二条丅ル二町目
洛陽繪本所
金屋平右衛門板