『直江兼続 戦国史上最強のナンバー2』 『謙信・景勝と直江兼続』(36-3)

 昨年放映され、話題を呼んだNHK大河ドラマ「篤姫」ですが、今回紹介する資料は、今年の同ドラマ『天地人』の主人公にちなんだ、『直江兼続 戦国史上最強のナンバー2』『謙信・景勝と直江兼続』です。すでに、関連書籍が多数出版されていますが、両書も昨年11月に出版された新書です。両書とも、文献資料の記述にもとづき、直江兼続とはどのような人物か、兼続が生きた安土・桃山時代、いわゆる戦国時代はどのような時代であったか、兼続が仕えた上杉謙信、上杉景勝をはじめ、豊臣秀吉、徳川家康、石田三成等戦国武将との関係や、著者の仮説・推測が、解りやすく書かれています。また巻末には、直江兼続の年表、関連史跡地図も付され便利です。

 直江兼続は学問や出版あるいは京都とも関係のある人物で、図書館とも有縁の人物であります。

 兼続は、上杉謙信より「義」を立てること、また愛するものは身をもって守る精神を受け継ぎ、米沢藩の執政として家中を支えると同時に、藩士の教育にも力を注ぎました。蔵書家としても知られ、朝鮮出兵の騒乱の中にあっても漢籍をはじめとする典籍保護に意を注ぎ、米沢に建立した禅林寺に、集めた古典を収めるために設けた禅林文庫は藩の図書館、藩校の前身ともなりました。

 さて、日本の出版は、百万塔陀羅尼をはじめとするお経や春日版、浄土教版などいわゆる寺院版とよばれるような仏教書が示すように、仏教と深くかかわりを持って発展してきましたが、中世になると、仏教や寺院を離れた出版活動も行なわれるようになりました。仏教関係以外の内容を持つ出版が行なわれるようになったのです。お上による出版である勅版や官版(いわば政府刊行物)、私家版、さらには書肆(本屋)による営利出版も出現するようになります。各地の大名・武将や医者等による出版も行なわれました。直江兼続もその一人で、中国の古典『文選』や『前漢書』『史記』、医学書『備急千金方』等を出版しています。そのうち、『六臣注文選』は「直江版」と呼ばれ、出版のノウハウをもつ京都の寺院・要法寺に委託して刊行されたことが分かっています。委託された要法寺は、木活字を用いた「要法寺版」と呼ばれる古活字の版式をもつことで、書誌学的にも有名な寺院です。

 また、兼続の兜の前立てに使用された「愛」の字は一説に京都・愛宕山の「愛」ともいわれます。愛宕山は勝軍地蔵を祀っていたため、戦国武将の信仰を集めていたからだそうです。ちなみに定説は兼続が崇拝する愛染明王の「愛」の一字に由来するという説です。

 直江兼続について初めて評した単行本とされる福本日南著『直江山城守』(1910年)をはじめ、木村徳衛著『直江兼続伝』、ドラマの原作本『天地人』など関連書籍をこの機会に是非御一読ください。