館長コラム~私の心に灯をともした青春の書12選 トルストイ『アンナ・カレーニナ』(27-4)

 新入生の皆さん、入学おめでとう!すでに何度も多くの人々からかけられた言葉でしょうが、「佛教大学1年次生」という一生に一度しかない輝かしい瞬間を祝うのには、やはりこの言葉が一番ふさわしいと思いますので、私も同じ言葉で心からお祝いを申し上げます。

 近年、子どもの「読書離れ」「活字離れ」が叫ばれ、いろいろな読書活動推進策が講じられてきました。その結果、2007年6月の毎日新聞社の学校読書調査によりますと、同年5月に本を一冊も読まなかった児童生徒の割合が過去最低となり、少し改善の兆しが現れ始めました。しかし、気になる結果もあります。それは、一ヶ月の平均読書冊数が、小学生9.4冊、中学生3.4冊、高校生1.6冊と、年齢を重ねるにつれて激減する傾向です。この傾向が続きますと、大学生は、どうなるのでしょうか。私は図書館長として、大学への期待と向学心に燃えておられる新入生の皆さんに声を大にして叫びたいのです。ぜひ1年次生の間に読書の楽しさと喜びを味わい、読書の習慣をしっかり身につけていただきたい、と。

 私は、1958年4月に京都大学教育学部に入学しました。いまからちょうど50年前のことです。大学に入って先輩や友人、同期生と話をして痛切に感じたことは、高校時代、バレーボールの練習やアルバイトで忙しく、必要最小限の受験勉強をする以外に読書の時間をとれなかった自分にいかに教養が欠如しているかということでした。それで、私は発心して「世界の名著を読破して、教養を身につけるとともに、人間の修養にも努めたい」と当時の日記に書きつけています。しかし、世界の名著を読むといっても、何を読めばよいのか、よく分からなかった私ですが、桑原武夫著『文学入門』(岩波新書)に出会い、その巻末に付されていた「世界近代小説50選」が私の読書意欲を掻き立ててくれたのです。それ以降、私は図書館から本を次から次に借り出し、貪り読みました。そのときの読書ノートがいまも手元に残っていますので、そこから、私に感銘を与え、私の心に灯をともしてくれた書物を12冊選び、五十音順に紹介して皆さんの参考に供したいと思います。これまであまり本を読んでこなかった人でも、頑張れば大丈夫、いまからでも遅くないのです。

 前置きが長くなりましたが、最初にお勧めしたいのは、ロシアの文豪レフ・トルストイの代表作の一つ『アンナ・カレーニナ』です。『アンナ・カレーニナ』のあらすじを紹介する紙幅がなくなってしまったのが残念ですが、私は、主人公のアンナとウロンスキイの激しい恋と悲劇に同情しつつ、むしろもう一方の主人公レーヴィンという誠実で純情だが、融通のきかない人物に性格の一致を見出し、ウロンスキイとの恋に傷ついたキティーをこよなく愛し、彼女と結婚するに至る生き方に共感を覚えました。『アンナ・カレーニナ』を一ヶ月かけて読み通すことによって、私は、トルストイの人間及び人生を見る目の確かさと信仰のあり方を追求する真摯な姿勢に感服し、彼に「人生の教師」の姿を見ることができました。

 その後、私は、トルストイの民話集『人はなんで生きるか』『イワンのばか』や『イワン・イリッチの死』などにも読みふけり、フランスの作家ロマン・ロランの『トルストイの生涯』とともに忘れられない青春の思い出になっています。

?<紹介図書>

 『アンナ・カレーニナ』
  トルストイ著 中村融訳 岩波文庫 1989.11?
  上 請求記号080∥イナフ∥617;1
  中 請求記号080∥イナフ∥617;2
  下 請求記号080∥イナフ∥617;3

 『文学入門』
  桑原武夫著 岩波書店 1963.11』
  請求記号080∥イナシ2∥34

 『人はなんで生きるか』
  トルストイ著 中村白葉訳 岩波文庫 1965.7
  請求記号080∥イナフ∥619;1

 『イワンのばか』
  トルストイ著 中村白葉訳 岩波文庫 1966.4
  請求記号080∥イナフ∥619;2

 『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』
  トルストイ著 望月哲男訳 光文社古典新訳文庫 2006.10

 『イワン・イリッチの死』
  トルストイ著 米川正夫訳 岩波文庫 1973.5
  請求記号080∥イナフ∥619;3

 『トルストイの生涯』
  ロマン・ロラン著 蛯原徳夫訳 岩波文庫 1960.12
  請求記号080∥イナフ∥556;1