佛教大学図書館デジタルコレクション

羅生門 : 上

ラショウモン : ジョウ Rashomon :Jo
  • ヘルプ

「 羅生門」に含まれるアイテム一覧(全 2 件) Item list

開く 閉じる

翻刻 Transcription

そもくにんわう五十六代のみかとせ
いわ天わうの御まこたヽのまんちう
と申はちから世に聞えきりやうたく
ましくしてふようの聞え有けれは
これ日本ふしのすい一なりとては
しめてけんしのしやうを給はり
くにくのぢらんをしつめ給ふかそ
の御子津のかみよりみつあとをつ
きはんしやうしたまふ時にあたつ
て都にふしきなる事共あり大臣
公卿の御むすめ土民百姓のむすめを
きらはす見めかたちのいつくしきは
いつくともなくうせけるとてうれへに
しつむものおほかりけりはしめひ

とりふたりのほとはわりなく人に
そゝなはされけるにやあるひはおや
のいさめもうとましくかくれうせぬ
とおもひしかこゝにもみえすかしこにも
うせぬといふほとにこそあれすてに
らくちうに百よ人にをよへりこれたゝ
事にあらすとてかみ一人より下はん
みんにいたるまてわか身ひとりのなけ
きとなれりいかさまこれは人のしわさ
にあらすとておんやうのはかせをめ
してうらなはせ給ふ處にうらかた
のおもてかんもんのもつていわくみや
このにしたんはのくによりわさはひ
をなすつゐには世をかたふけわうゐ
ををかさんとするよしかんかへけれは
いかゝしてかれらをほろほさんとく
きやうせんきありけるにとかくせつ
津のかみみなもとのらいくわうをめし
てかれにおほせてたいちあれかしと
そうもん申されけれは

みかとけに
もとおほしめし
すなはち
いそき
頼光をめして
せんしを
なし
下さる

頼光ちよくめいにしたかひやす
くと御うけ申しゆくしよへかへ
りさふらひたちをちかつけ我ふし
きのちよくめいをかうむりたんは
のくに大江山のきしんをうつてに
むかふなりわれとおもはん人々は供
してたへとのたまへはつはものお
ほしと申せともつなきんときさた
みつすゑたけとて四天わうと
聞えし人に藤原のほうしやうを
一人くわへ以上六人の人々山ふしの
すかたに御身をかへ大え山にしの
ひいりさしもつうりきひきやうの
鬼ともの七十五きかくひをとり
こゝかしこにてとられし女はうと
もをみなくめしつれてかへらせた
まふかまことにこれわうめいおもく
してせんしにおそれきしんほろ
ひけるといひなから人々のてからのほ

と人けんのわさとはみえさりけり
さてこそ天下しつまりてはんみん
よろこひけるとなりこれしかしな
から頼光のふゆうすくれたるによ
りてなりとてすなはちくわんゐを
こえあまたしよりやうを給はりいよ
く名たかくきこえける扨また
ある夜のつれくに頼光は五人
の人々をよひあつめうたひさかも
りしたまひてたかひにえいくわ
したまひける折ふしこゝかしこの
物かたりしたまひてほうしやう申
さりけるはさても大江山のきしんを
たいらけ世もしつまりぬされとも
うちもらしつるそのけんそくのおに
とうしのらしやうもんにすみてさる
の刻より九てうあたりは人のかよ
ひもたやすからすとうけたまはる
めんくはしろしめさすやとかた
りけり人々これをきゝたまひ

いかさまさやうの
ことのあるへし
ゆゝしき
てんかの
わさはひなりと
をとろき
給ひ
ける

つな此よしをきゝこれはほうしや
うの物かたりともおほえすくにを
へたてゝ山をこへいつくのしまに
きしんすむなとゝいはゝまことゝも
おもふへしすてにとうしのらしや
うもんはわうしやうの南門なれはい
かにとしてきしんのすむへきそや
たとへすめはとて我くかくて
あるうへはすませてをくへきか惣
してほうしやうはその身のによはう
なるにまかせて京わらんへのくち
すさみをまことゝおもひ御まへに
ての物かたりははゝかりおほくおほ
へたりそのうへこのつはものとも
大江山のきしんをうちもらしぬる
なとゝいはゝかつうはちしよくのいたり
なりよそにての聞えもむねん
なるへしとさんくにあつこう申さ
れけれはほうしやうよしなき事を

かたり出しめんほくなけにて色を
そんしいかにそれかしもたしかに
しりたると申さはこそ人のかたれ
は聞つたへさしきのけうに申つ
れしよせん御身とこゝにてあら
そひ申ともまこといつはりはしり
かたしさほとにふしきにあるならは
こよひにてもかのらしやうもんへ
ゆきあるかなきかを見たまへ見
たるこそせうこなれそれかしあし
き物かたりして御まへのけうをさ
まし申事御めんあれとてから
くとわらはれけるつなこのよしを
きくよりあらことくしのほうしやう
のいひやうかなさてはそれかしから
しやうもんへえまいるましとおもひた
まへるかやたとひつくしのはて
なりともきしんあるとたにいふな
らは一人はせむかつてたいぢせん
に何のおそれかあるへきそやまし

てこれほとの事にこゝろをはみら
れしとさしきをたゝむと見え
けれは頼光きこしめししはらく
しつまり候へまことにきしんすむ
ならはつゐにはかくれあるましき
とおほせけりそのときめんく
とうしんしてこゝろしつかにたい
ちせんあはてゝみゆるつはものと
とゝめたまへともつなもとより心はや
きおのこにていやくほうしやうに
たいしいこんはなけれともひとつ
は君の御ため又はてんかのあさけ
りなりとてひそかに一人しのひ
ゆきまこといつはりを見てかへらん
と申されけるもしきしんすんて
それかしにわたりあひて手にあま
るほとならはかさねてせんしをた
いして御むかひあるへきなり
おなしくはしるしの札を給はり
てまいりたるせうこにらしやう門

にたてをくへきとおもひきつ
たるありさまなりらいくわうちか
らおよはせたまはすそのきなら
はしるしのふたをゑさすへし
あいかまへてふかくしたまふなよそ
なからもんのありさまを見てかへ
れとそのたまひけるつなはしるし
の札をたまはりさしきをたち
て人くにおにのすむならはや
かてくひとりてさかなにまいら
せんもしうちもらしなは二た
ひかたくに
おもてをむくへき
事あらしと
いひすてゝ
いそき
しゆくしよに
かへり
けり

ひとまところにさつといり十文字
うつたるからうとのふたをあけひお
としのよろひにおなしけの五ま
いかふとのをゝしめ頼光よりあつけ
下されたるひさまるといふたちを
もちたゝ一人ひさうせしれんせん
あしけの馬にきんふくりんのくら
をゝきゆらりとうちのり一むちあ
てゝみれはこのころかひにかふたる馬
なれはむちにおとろきひろき大に
はにをとりいてしりこみしてそ
はねまはりけるらうとうともめを
さましこれは夜うちのいりたるらん
とてたちなきなたのさやはつし
なに事やらんとひしめきけり
つなこゝゑになりいひけるはあは
てたるものともかなたちもかた
なもさやにおさめよ我たゝいま
御まへにてふしきのさうろんし

てとうじの羅しやうもんへゆき
おにのすかたをみるへきなり人
あまたにてかなふましみなく
これにまちはんへれとてこま
のたつなをかいくつておもて
をさして出にけりらうとう共
これをきゝさてもゆゝしき
御大事かなたとへははんくわい
ちやうりやうほとのつはもの千き
万きこもるとも人ならはおそれ
たまはしきしんはつうりきし
さいのものなれはいかにもわかみ
をへんしてうたるましこのた
ひの御せんとなれは御とも申へき
といひけれはつな此よしきゝ給ひ
よしなき人々のいひ事かな御ま
へのこうろんにをよひ身のたと
ひみちんにくたかるゝともいたむへ
きにあらす人あまたくしてゆく
ならはのちのあさけりもむねん

なるへしそのうへ今度大江山の
きしんをみるにちゑあそうして
たはかりやすしせんきまんき
ありとてもたちのかねのうたれ
むほとはきりとるへしわかいきほ
ひをしるならはいかなるきしん
なりともいつへきとはおほえす
ときうつりてはあしかりなんと
いひすてゝとねりもつれすたゝ
一人しゆくしよをいてゝ二てうお
ほみやをみなみかしらにあゆま
せゆくすてに九てうあたりま
てしつくとゆきけるかにはかに
雨ふりくろくもおほひいまゝて
さやかなる月もかきくもりしんやの
ことしゆくへきさきもしらすかへる
へきみちもわすれて
せんこも更に
みえさり
けり

されともてんかふさうのかうのもの
なりけれはいかてかみさるへといかつ
ちのひゝきをしるへにていなひかり
をたいまつとしてこゝろしつかに
そうちよせけるさるほとに頼光
はのこる人くとしゆえんして
まち給ふかいかさまこの雨のふり
やう又いかつちのひび(←ゝに濁点)きわたるは
つなからしやうもんへゆきてきしん
になやまされぬるとおほえたり
此ありさまをしりなからこゝに
てまたんもこゝろもなしいさや
わたなへにちからをそへてとらせん
とてさしきをたち給へはもつとも
しかるへき御ちやうとてめんく
しゆくしよへかへりおもひくの
よろひきてよりみつとのをさき
にたてこまにむちをうちそへて
手にく大たいまつともしてみちく

ときのこゑをつくりこれも大み
やをくたり八てうのほうもんまて
ゆき給ふ處ににはかになまくさ
き風ふきて雨しやちくのことくふり
けれはたいまつ一度にきえてぜん
こさらに見えさりけりさしも大
かうの人々も雨かせにもまれて
ことはをかはす事も聞えすして
わたなへを見つくへき事はわすれ
はてゝたゝわれ一人かしんたいこゝ
にありと五人の人々はこまのかしら
をならへていかゝせんとそさゝやき
けるまことにこれは大江山にて
うちもらしたるきしんかわさなる
へしものゝこゝろをさとりてその
身はこくうにかくれゐて雨風のま
きれにひとりくとらんとおもふ
しよいなるへしめんくゆたんし
たまふなよいまははやゆくへきかた
おほえす家にて夜のあけんを

まつへきなり
むさんや
つなは
鬼にとら
れん事こそ
むねんなれ
とて
むなしく
時をうつし
給ふ

かくてつなはかやうに人々のうしろ
つめしておはしますとは夢にも
しらすこまにむちうちこゑをそへ
てかけまはりけれともさしもの
名馬と申なから身ふるひしいなゝ
きて一むちうてはやうやう二とき
あまりにみち三町かほとはせつき
てはるかに見あけてこまをひ
かへこゝろをしつめてくわんねんし
けるかなむや八まん大ほさつ百
わうちんしゆのしんとしてかたしけ
なくもおとこ山にあとをたれた
まひしかるにまのあたりにてき
しんすんて人をなやますをしやう
らんあらすやわれにちからをそへて
きしんのすかたを見せしめ給へ
とたなこゝろをあはせてきせいし
めをひらきみてあれはらしやうもん
のうちにくろ雲たなひきくも

のうちよりひかりたちてせんまん
のいかつちなりひゝきていまはい
きやうのものまなこにさへきりて
見えにけりいかにきしんまさ
にきけわうしやうまちかきこの
所にすんてゆきゝの人をなやま
すともわか手なみをきゝおよふへき
はやくすかたをあらはしわれと
せうふをけつせよとてたんしやう
にとひあかりいきほひはらつて
まちかけたりきしんこのよしみる
よりもすこしおそれてちかつか
すやゝありてからくとうちわら
ひ雲のうちよりいひけるはなん
ちはよりみつかうちに聞えたる
わたなへのけん五つなというかう
のものかや先年たんはの大江
山にてうちもらされそのうらみを
さんせんかそのためにいま此所に
すみしなりなんち一人をとゝめん

事ものゝかすともおほえぬなり
なんちかしうの頼光をとりした
かへおにとものけうやうにほうせん
とつねくうかゝひまつ處には
やくかへりてらいくわうにかたりつゝ
つれて來れと
よははつて
雲のうちへそ
かくれ
ける

つな此よしきゝて一人たにもとゝ
めえぬ身にてなにほとの事の有
へきそ我なんちかすかたみんため
に人々とさうろんしてこの所に
來りたりのちのせうこにはなんちた
ちてくれよいとま申てかへるとて
らしやうもんにうちより石たんに
しるしの札をたてをきまたこそ
けんさんにいるへしとて馬のはな
をひきむけてむちにあふみをあ
はせはやかへらんとしたりけるう
しろよりらしやうもんくつれかゝる
とおもひけれはそのたけ二ちやう
はかりなるきしんなかき手を
さしのへてひたりの手にてつ
なかかふとのてへんをつかみみき
の手にて馬のおをくるくとま
とひてなんちいつくへかへるそしは
らくといふまゝにとつてなけん

としけれとももとよりつなは大ち
からのかうのものなれはすこしもさ
はかすこゝろへたりとてひさまる
をするりとぬきふりあけきしん
をきらんとしけれとも大はんしや
くにおさるゝことくにてはたらく
へきやうもなかりけりむさんや
つなはこゝろはたけしと申せとも
みかたのつはものもなかりけれは
すてにきしんにひつたてられ馬
もろともにとりひしかれいまは
さいことおもひけるかつなしあん
してかふとのしのひのをゝきつて
はなちもちたる太刀にて馬の
をゝきつてすてけれはきしん
おのれかちからにひかれて大ほく
をたをすことくにあをのけに
とうとたふれけりおきあからんと
しける所をつなとんてかゝりおさ
へてくひをかゝむとしけれはものゝ

かすともせすしてつなかかうへを
つかんてらしやうもんのなかはま
てあかりけるをさけられなから
はらひきりにそきつたりける
きしんかみきの手をひちのかゝり
よりふつつときりおとしけれはら
しやうもんの二かいよりつなはまつ
さかさまにそおちにける石たん
にてかうへをつきそんしめくれ
こゝろもきえけれともしはしいき
をつきけれは人こゝちつき四はう
を見まはしけれは夜はほのく
とあけにけりつなはむまにはな
れてかちたちにて
ほうせん
としてこそ
ゐたり
ける

頼光をはしめ五人の人々はせき
たり給ひいかにくとのたまへは
つなはいよくちからをえて人く
とうちつれてたかひに物かたりし
てきつたる鬼の手をもちてよ
ろこひいさみてかへるところに
またにはかにくもりしんやのや
みになりにけり人くきもをひ
やしけれはらいてんおちかゝりき
りたる鬼の手をうはひとって
そあかりけるむねんたくひはなか
りけりされともつなの手からのほ
とはあらはれほうしやうのいひし
こといつはりにてあらさると
しょ人のふしんも
はれに
けり

開く 閉じる

書誌情報 Metadata

タイトルTitle

羅生門 ラショウモン Rashomon

別書名 Alternative Title

羅城門 ラジョウモン Rajomon

巻次Volume Title

ジョウ Jo

部編番号Alternative Volume

1

出版者Publisher

[製作地不明] : [製作者不明]

出版年Date [寛文頃か]
時代区分Temporal 江戸 Edo
主題Subject 物語・説話 Story & Tale / 絵巻・絵本 Picture scroll & Book
資料種別Materiar Type 和古書 Early Japanese Book / 図書 Book / 静止画資料 StillImage
タイプType Image / Text
フォーマットFormat image/jpeg
言語Language 日本語 jpn
彩色有無Coloration Coloring
刊写別Publication way 写本 Manuscripts
一般注記Description

個別書誌作成(和古書)
写本
内外題なし, 本標題は箱蓋墨書による
奈良絵本絵巻
極彩色絵に墨書詞書
本文: 漢字交じり平仮名文
巻子装, 八重桜文金茶色表紙, 布目地金箔置見返, 金彩草木下絵鳥子本紙(裏面雲母引)

OPAC URLCatalog Record https://bukkyo.userservices.exlibrisgroup.com/discovery/openurl?institution=81BU_INST&rfr_id=info:sid%2Fsummon&rft_dat=ie%3D21297472850006201,language%3DEN&svc_dat=CTO&u.ignore_date_coverage=true&vid=81BU_INST:Services&Force_direct=false
原資料識別子Source Identifire 書誌ID: 991002769649706201
NCID: BA71488819
公開状況Access Rights インターネット公開 opened
二次利用Rights Statements
著作権なし-利用制限あり (詳細は「コンテンツの二次利用について」をご覧ください。)

 全体を見る 閉じる

書誌学的説明 Bibliographic Description

巻子仕立ての本体には内題外題ともになく、標題は箱蓋題によるものである。丁子茶色地に金糸を使った桜花織模様のある布表紙に濃紫の平紐を巻き、見返しには布目の金箔を置く。厚手鳥子紙の天地に金砂子・切箔を散らし、金彩下絵を施した本紙は裏地にも雲母(きら)を引いた豪華な絵巻である。本紙(詞書部分)は狭い部分で幅二二・八、広い部分では五〇センチをこえる。納められた箱の蓋には「ろ第四拾八號」との貼紙付番がなされている。

開く 閉じる

主題:「 絵巻・絵本 」のその他のタイトル Relational Titles

「源頼光」についてさらに調べる(ジャパンナレッジ) Relational Search

開く 閉じる

スマホ壁紙設定イメージ Setting Image of Smartphone Wallpaper

画像をダウンロードしてスマートフォンの壁紙に設定しよう

デジタルコレクションの画像をダウンロードして、スマートフォンの壁紙に設定してみませんか?
以下のボタンから設定方法を確認してみましょう。

 コンテンツの二次利用について

開く 閉じる