佛教大学図書館デジタルコレクション

大江山奇譚 : 中

オオエヤマ キタン : チュウ Oeyama kitan :Chu
  • ヘルプ

「 大江山奇譚」に含まれるアイテム一覧(全 3 件) Item list

開く 閉じる

翻刻 Transcription

扨童子申けるはこのものともにおなしくはたいめんして氣分
をも見すかしてみやこのことをもとはんなり我いせいに恐れ
なはそれをかこつけにしてみなくいましめて壱人つゝ
人屋にいれへしいかさまにもたいめんせんとて出けり童子
かさきはらいとおほへて目みつはなたかく人にもおほへぬいる
いきやうのおそろしきおにとも出て大座にかしこまりける扨
おくのかたとうようしてなまくさき風ふきたるに人々身の
毛よたつておほえけるにやゝありてあさ日の出るかことくかゝや
きて出るをみれはたけ一ちやうはかりなりかみはかふろにして
こへふとりようがんひれいにしてとしのほとは四十はかりに
見へたりおりかうしの小袖にあかきはかまふみつゝみてわらは
二人のかたにかゝりてさうわうかあゆむかことく左右をみまは
してときくはまかけをしてゆるめき出たるそのいきほひは
あたりをはらいしけしき中く筆にもつくしかたしかねて
聞およひしよりいやまさりておそろしけれは山伏たちも
みなせきめんしてそゐたまひける

扨童子は人くの居たりけるに一間へたてゝさしきに
なおり人くにむかひゐたりけり頼光以下はむかひ座にそ
なおられけり此人々たかひにめを見あわせとやせまし
かくやせんとあんする所に童子申やうそもく御へん達
はなにことにより此所には來り給ふそ深山といゝかんぜきと
いゝちらしてまかけをさして見めくらすおそろしさいふ計
なしきやく僧たちに酒一つまいらせよといひけれはけんそく
ともうけたまはつて大なるつゝに酒をいれてかき出すうつす
をみれは人の血なりそのいろはつしみくさきことかきり
なしまつとうしさかつきをとりたふくとうけてほし頼光
にさしにける頼光すこしもおくせすたふくとうけてのみ
給ふ保昌にさし給へはとりあけてのむまねをしておかれ
ける其のちつなうけとりてたふくとうけてのみけれは
童子申けるはめつらしきさかなやあるまいらせよと申けれは
まないたにたゝいまきりたる人のもゝにしほをとりそへて
をきたりとうし申けるはたれかあるこしらへてまいらせ
よといひけれは頼光さしよりてこかたなをぬきしゝむら
をそいてしほにさしてくい給ふしゆせうの物かなとのたまひて
あちはひ給ふつなもさしよりてくひにけりのこりの人々
しやうきやうちりきの身にて候とてくわさりける頼光と
つなかふるまひを見てとうし申けるは御へんたちは酒も
さかなもこゝちよくまいりつる物かなとてよろこひける
頼光のたまひけるは我らかならひにてきやくそうたちに
けたみ申さんかためにさ候へと申ものをもちて候かなにかは
くるしかるへき一つ申さはやとのたまひけれはとうし大に
よろこひてしゆ興して申けるはみやこのさけをしやうくわん
せんことはまことに御心さしありかたくおほゆれと申けれは
やかてつなしゆくにたちてこれをすゝめけりとうしはひかへて
三とのみつゝ又くわいぜんとなるその後くたんのとく酒を
そへてしいけれはさしうけく十とはかりのみつゝあまりの
興にやとうし申けるはわかきあいの人ありよひ出して都
の酒をすゝめんとてくにかたの卿のむすめ花そのゝひめ君
二人よひ出し奉りとうしか左右にそをきたりける去程に
毒酒やうく身にしみけれは心もみたれゑいをふくみて
申やうかたくこれまての御出まことに面白くこそ思ひけれ
しはらくとゝまり給へそもく我をはいかなるものとかお
ほしめすむかしより此所に侍りされはけんそくともに申つけ
てみやこよりかたちよき女人をむかへとりて心をなくさみ
しなり其外瑞宝ゐんふつにいたるまてとりよせくのみ
くひたのしみ申はかりなし何につきてもふそくといふ
事もなかりしに弘法大師と云ゑせものにしゆそせられて
此所にはまよひ出大みねかつらきのかたにかくれてこそ千代

をへしに此ゑせものとうしはかうやと申所にこもりぬ其
後はみちひろくなりてこの百余年は此所に侍り也この
女房達もみやこより請して候人おほく候へともこれらはさい
あひに思なりいかなる世まてもちきりをむすひ候はんとおもふ
なりいまより後はなに事に付ても都の事をはをのくに
たのみ申さんさりなから心にかゝることありみやこに頼光と
いふくせもの有いにしへ今にこれほとふいにたつせるものは
なしふん武二道のたつしや人にすくれて仁義の道をも心かけ
天下のまつり世にすくれまなこのひかりもすくれてむかふ所
のかたきたいらけんといふ事なしときこゆるこのほともけ
んそくとも出けるにこの頼光からうとうにゑせもの有其名
をつなといふ者さんくにおとしけるなりさりなから用心
つよくしてけんそく共を番におく間いかなる頼光つな也
とも此城をはやふられ申ましをのく見たまへ此城の
つよきをなとゝ申して山ふし達をよくく見て又申けるは
御へん達をよくくみれはかの頼光かとみへたりのこる四人
の人はつなきんときさたみつすへたけかとおほえたり荒おそろ
しやこれにありあふおにとも心はしゆるすなとゝてよくく
見れはかのほうしかふとをき給へともゆへにいかにみんとすれとも
みへさりけりされはこのためにおきなのあたへ給ひける也さて
頼光のたまひけるはそもくその頼光とやらんはいかなる人にて
や侍らんすへてそんせす當寺さやうの人ありともうけたま
はらすたゝしみやこひろく候へは其事ともや候はん我らは出羽
の國羽黒の山ふしにて候か熊野にとし籠りして此ほと
はしめてみやこに上りて候か古郷へかへるとて道にまよひて
まいり御目にかゝり候へは悦ひ存候とまことしやかにのたまへは
とうしさけのすいけうといひしゆけうに心中をのこさす申
けるは我神通のまなこにて人をみるにたかはす御へんの
まなこの色は 世人にかはれり 同道の人々をも みるに つたへ
きく頼光か 四天わうの ものともに さもにたり 中にも あの山
ふしは つらたましゐ まなこざし 人にすくれて みへたり とて
つなを さしてそ申ける

六人の人々は毒酒をはのみたまはねは色もちかわす童子
は次第にしやうねみたれて居たりしに酒呑とうし申けるは昔
弘法大師と云へる僧の侍りし故に候へとも又おもひいたし
たり若さやうのくせものきたるらんとおもへはかくのことくは
申なりかまひて心をき給ふなよいかにみやこの人達にさかな
ひとつ申せと有けれはいかにもあらあらしき鬼承り候とて
ついたちてふみめくりて
みやこ人いかなる風のさそひ来て
さけやさかなのゑしきとやなる

と二三へんうたひてまいにけりゑしきといふは此人々を
酒さかなにせんといふ心なり人々此ことはを聞からに物す
こく思はれける中にもつな思ひけるはにくきやつか申事かな
其儀ならはとうし酒にゑいたりけん中をさしつらぬきみな
おつかけて首うつほとならは世のやつはらは座敷にてうち取
なんと思ひけれはまなこかとたちちすちあらはれうち刀にて
おかれけれは頼光やかてみしりてしりめににらまへ給ひけれはつな
は思ひとゝまりぬ

去程につなは都にかくれなき舞の上手にてありけれはとうしか
ひかへたるをみすゝみいてゝ申けるはわれらもさかなひとつまいら
せんとて     年をふる鬼のいわやに風のきて
夜まに花を吹ちらすらん
と二三へん心ことはもおよはす舞けれはとうしきゝとれてそ
ゐたりけりにわになみ居ける四天王と聞へし鬼ともこの
舞の言葉をはきゝしらすたゝおもしろきとはかりにておもひ
けるこそおろかなれその後とうしもつてのほかに酒にゑひ我
身のたいには女房達を置きやくそう達に酒すゝめたまへ我等
はいとま申也明日こそげざんにいり申へけれとてつねのすみかへ
入にけり其時頼光二人の女房たちにのたまひけるはみやこ
と仰られけるはいか成人にておはするとのたまひけれは女房仰
けるはわれは花そのゝ中納言の姫也かりそめにとられ侍りてかゝるうき
めを見侍る也あいしたかふ人ありけれ共言葉をかはしなとす
れはとうし大なる目をいたしてにらまへ侍る也その時は心も
きえいる心ちし侍る也露のいのちなからへて侍るゆへ御身達に
あひたてまつる也しかるへくはをのく都にかへりたまひてこの
有様をちゝ母にもかたり給ひてあととふらせ給へと仰られてた
ひ給へとて泪をなかし申されける頼光のたまひけるはわか身は
勅諚にて是迄参り候也城のうちの案内をしへ給へ鬼を
ほろほしてのち心やすくみやこへのほせ奉らんと申されけれは
女房なのめならす悦ていさゝせ給へこの川かみにいしのついち
大城門ありその内におそろしき鬼とも番をする也そのおくに
は石をたゝみそのうへには石のついしをつきまわしくろかねの
門をたて四方に四季をまなひけりまつひかしは春とおほ
しくて柳さくらをうへならへのきはの梅もにほふらん鶯の声
もとりくにそおほしける夏はまた池の藤波さきみたれやま
郭公の一こゑもむかしをこふるはなたちはなたれか袖にか匂ふら
55ん西は秋のすかたにて萩ふかく風に夢さめて夜すから月
そすみにけり梢のもみち色そへていく時雨にかあひぬらん
こゑくすたく虫のねもいとゝさひしくおほしけるみきはのこほり
とちぬれはむれいるとりも一しほにうはけの霜をやいたむらん
まことにとうしのたのしみはかうたひ成有様なり后と名つけて
よるは女房十人つゝ番にかはらせよもすからなてさせさすら
れ昼はけんそく共にかしつかれけり又けんそくの中に色く
のきしんありうみ川ともいはすして心にまかせてはしりめくる
ものをは四天わうと名つけ又あしはやのてきゝあれはかれは
かなくまとうし石くまとうしとて二人のくせものをは我身ちかく
おきて何事をもめしつかひける也夜は裏の口に番を勤侍る也
何としてかはやふらせ給ふへきそのほか佛神の御ちからにもかなふ
へきともおほえすとて泪をなかし給ふかやうに言葉におしへて
かへり給ふ人々城の案内くわしく聞候へは嬉敷覚しめして
行給ふ其後此女房達とくしゆをとりいたしてけんそくの鬼
ともにもり給ふこのどくのさけすこしなりとも身に候へははるゝ
心ちもなきにいはんやそくばくのさけこふくと受のみけれは
あんのことくにふしまろひあるひはかうへを抱てにくるもありの
これるおにともさしきにねるもあり又はゑんのうへよりはき
かへすも有そのうちにとくのさけのまぬおに二三人ほと有
てゑいたる鬼ともをかたにかけてのく所もありけり

頼光のたまひけるはわれらはちよくちやうをかうふりてこれまて
むかひて候へともとかくのはかりこともなかりつるにこのうちへいり
とうしにたいめんしかれらをもこゝろのまゝにしたかへ侍らん
女ほうたち道しるへさせたまへおにか岩やに入候はゝかれをうたん
ことやすかりなんと仰られけれは女房聞たまひてさては
まことのらいくわうにてましますそやさてはたのもしくこそ候へ
いてたちたまへいわやまてもひきいれまいらせんとのたまひけ
れは人々よろこひおもひくに出立ける頼光は火をとしのよ
ろひにてくたんのおきなのあたへたりけるほしかふとのうへに
しゝわうと申五まいかふとに二尺壱寸ありけるちすいといふ釼を
はき給ふ保昌は紫おとしのはらまきに石はりと云太刀を
そもち給ふつなはもへきおとしのはらまきにおにきりといふう
ちかたなひきそはめたりよの人々もおもひくにくそくして
二人の女房を道のしるへにしてちうくの木戸をそとをりける
日ころはさしもかたくおさめし門戸石のついちくろかねの門
をも其夜のさけにゑいふして用心するものもなかりしかは
ましてとかむるものもなしさしこへくとおり給ふそふしき成
扨童子はしんつうのものなりけれはこのよしをしりて大によろ
こひふしきの事かなこのあいたは女ほうはかりとり酒さかな
なとゝて心をはなくさみつれめつらしくもなしおことはほね
こはくしゝむらもあつくしておもしろきところもありわれかく
て出あひなはすかたにおちをそれ候て心をつくしなは身も

やせしゝむらきえてちすくなかるへしよくくすかしして心を
とりまたみやこよりきたれる物ともならはみやこの事をも
とひ侍るそのうへにて壱人つゝ人屋にいれて至なんとけん
そくともに申けれはけんそくのおにともなのめならすに悦ひ候
いかちせんやうにして門外に出この人々をつくとそま
ほりゐけるおそろしきことかきりなし

開く 閉じる

書誌情報 Metadata

タイトルTitle

大江山奇譚 オオエヤマ キタン Oeyama kitan

別書名 Alternative Title

大江山絵巻 オオエヤマ エマキ Oeyama emaki

巻次Volume Title

チュウ Chu

部編番号Alternative Volume

2

出版者Publisher

[書写地不明] : [書写者不明]

出版年Date [江戸中期]
時代区分Temporal 江戸 Edo
主題Subject 物語・説話 Story & Tale / 絵巻・絵本 Picture scroll & Book
資料種別Materiar Type 和古書 Early Japanese Book / 図書 Book / 静止画資料 StillImage
タイプType Image / Text
フォーマットFormat image/jpeg
言語Language 日本語 jpn
彩色有無Coloration Coloring
刊写別Publication way 写本 Manuscripts
一般注記Description

個別書誌作成(和漢古書)
写本
奈良絵本絵巻
詞書: 漢字交じり平仮名文
辺界: 墨界, 押界
巻子装, 唐茶色地仏手柑宝尽文繻子表紙, 金砂子散見返, 金彩草花下絵鳥子本紙

OPAC URLCatalog Record https://bukkyo.userservices.exlibrisgroup.com/discovery/openurl?institution=81BU_INST&rfr_id=info:sid%2Fsummon&rft_dat=ie%3D21305162090006201,language%3DEN&svc_dat=CTO&u.ignore_date_coverage=true&vid=81BU_INST:Services&Force_direct=false
原資料識別子Source Identifire 書誌ID: 991003575579706201
NCID: BB0548624X
公開状況Access Rights インターネット公開 opened
二次利用Rights Statements
著作権なし-利用制限あり (詳細は「コンテンツの二次利用について」をご覧ください。)

 全体を見る 閉じる

書誌学的説明 Bibliographic Description

仏手柑に宝巻、分銅、七宝、丁子などの宝尽をあしらった文様を織り出した茶色地の繻子織布表紙に箱蓋書と同筆で「大江山奇譚」と墨書された金色題簽が貼付されている。箱の側面には「大江山酒呑童児物語り全三巻揃」「特/第拾四番」の墨書も見られる。三軸に仕立てられた巻子装の見返しには金の大小砂子が細かに散らされ、絵と詞書の部分が交互に配される絵詞の体をとる。

本文行間には、はじめは墨筆による薄い極細の界線が引かれているが、途中からは押界によって行が整えられている。

本書には本文本紙の継ぎ直し、および絵と詞の継ぎ直し等、改装のあとが見られる。改装の折に行なわれたと思われるが、本紙の周りには軸装に見られる中廻しのような布地がほどこされ、絵の部分にはおそらく錯簡かと思われる箇所がある。石清水八幡宮、住吉社、熊野社三所に参詣したのち、千丈ヶ嶽に向かった頼光等は、参詣した石清水八幡宮、住吉社、熊野社三所の神仏の化身である男三人に途中の山中で出会うのであるが、その出会う場面と、そののち三人の家に招かれもてなされる場面とが逆になっている。

開く 閉じる

主題:「 絵巻・絵本 」のその他のタイトル Relational Titles

「しゅてんどうじ」についてさらに調べる(ジャパンナレッジ) Relational Search

開く 閉じる

スマホ壁紙設定イメージ Setting Image of Smartphone Wallpaper

画像をダウンロードしてスマートフォンの壁紙に設定しよう

デジタルコレクションの画像をダウンロードして、スマートフォンの壁紙に設定してみませんか?
以下のボタンから設定方法を確認してみましょう。

 コンテンツの二次利用について

開く 閉じる