– 原文 –

【九之巻】東寺　寺領弐千三十石

桓武天皇の御こんりう
大内の羅城門のひかしにあたれり
嵯峨天皇の御宇
弘仁十四年正月に空海に給はる
當寺本佛は薬師如来
講堂は仁王秘法の蜜佛也

– 原文 –

大通寺　寺領二百八拾石

源実朝公北の政所二位の尼はじめてこんりう
さねともは靏が岡社参の夜悪禅師公暁にころされ給ふ
御臺は御餝をおろして此所に住給ふ
よつて俗に尼寺と号すといへり
此庭絶景の地也

六宮權現

六孫王経基社
遍照心院の鎮守也
経基は貞純親王の御子なりはじめて源氏を給はりし時日本の大将ぐん武士のとうりやうたるべしとて
白はた一ながれ
らてんの御けん一ふりたまはり
本より弓馬に達しそのい天下にふるふ
村上天皇天徳二年十一月廿四日に四十壱才とならせ給ふ
八尺の龍となり西八条の池にすみ給ふといへり
今に六そんわうのやしろあり

– 原文 –

壬生寺　寺領四十石余

稱徳天皇の御宇
鑑真和尚のかいき
往古は律院にして西大寺派也
今は真言の僧これを守
寺に鑑真の像あり
あやまつて夜叉神と云
當寺の名四つあり
小三井寺
宝幢三昧寺
壬生寺
地蔵院

– 原文 –

[狂言]

【上段】此寺のきやうけんのはしめに
かならず猿をまねひてつなわたりをする事
壬生寺にかきる故ありとそ

【下段】おけとりのおんなを道心者のみそめて
さまさまくときおとして妻とするを
はしめの妻ねたみて
うはなりするてい也
あさひな
めいとへゆきて
鬼ともをいさめ
ゑんま王にわひことさせるてい也

– 原文 –

[狂言つづき]

【上段】こんくわいのきやうけんをやつして
きつねつりをわなへかゝらせ
きつねはかへるていをする也
もみちかりの能をやつして
きやうけんにしたるもの也

【下段】ゆたてするまねをきやうけんにやつして
さまさまのたうけあり
かきさいにんといふきやうけんをやつして
さまさまおかしきしよさをそへたるきやうけん也

– 原文 –

[狂言つづき]

【上段】さとうのねうはうをさるひきにとられ
さとうはわかつまとおもひて
さるをひいてかへるてい
あふひのうへの能をやつしたる
きやうけんなり

【下段】なわないといふ
きやうけんやつしたり
たんなのもたせたるさくら
又こしのかたなをぬす人にとられけるを
たんな見つけてとらへけるを
しはらせんために
にはかにわらをうつてい也
さいにんを見つけ
おにともいろいろさいなむ所へ
ちさうほさつたすけ給ふてい也

巻九には寺領二千三十石の東寺をはじめとする大寺院が並んではいますが、もっとも紙数を割いているのは寺領四十石の壬生寺です。代表的な演目が紹介された壬生狂言の記事は人気も高かったのでしょう、やはり上下二段取りです。